事業の趣旨・目的等について

ⅰ)事業の趣旨・目的

 観光産業は沖縄のリーディング産業として県経済をけん引するものであるが、現在はコロナウイルス感染症拡大により、多大なダメージを受けている。ウィズ・コロナ時代の後に訪れるアフター・コロナ時代は量を重視する観光から質を重視する観光への転換により、良質で持続可能な観光(サスティナブル・ツーリズム)を目指すべきとしている。我々は新しい時代の沖縄観光を支え、沖縄の観光を量から質へと転換し、良質で持続可能な観光を拡充できる次世代観光人材を育成するプログラムを本事業で開発していく。

 開発プログラムは「高校生」「専門学校生」はもちろん、高校と専門学校の前後に位置する「中学生」及び「社会人」も包括する。時系列に見ると、中学と高校の橋渡しとして「高校の魅力発信プログラム」を開発。開発プログラムにより中学生にとっても魅力的な高校となり、地域課題である高校進学率の向上、高校中退防止に繋げる。次に、高校と専門学校で5年かけて学ぶ「高・専一貫プログラム」を開発。共通目標と一貫したカリキュラムを構築し、県経済をけん引する沖縄の観光産業を支える専門人材を育成する。そして、専門学校卒業後も学び続けられる体制づくりとして「観光業界定着プログラム」を開発。離職を減らし、観光業界への定着率を向上する。卒業生の業界での活躍は高・専一貫プログラムで学ぶ高校生と専門学校生の身近な将来像であり、将来像の明確化は共通の目標設定や一貫したカリキュラムの重要な要素となる。

 開発プログラムにより沖縄の自然や文化等ソフトパワーを生かした高付加価値の新しいツーリズムが開拓されること、そして、沖縄の自然や文化を守りながら沖縄が世界から選ばれる持続可能な観光地となることに寄与したい。

ⅱ)学習ターゲット、目指すべき人材像

学習ターゲット:中学生、高校生、専門学校生、社会人
 県経済をけん引する沖縄の観光産業を支える専門人材を育成。人材育成により沖縄の自然や文化等ソフトパワーを生かした高付加価値の新しいツーリズムが開拓され、沖縄の自然や文化を守りながら沖縄が世界から選ばれる持続可能な観光地へと発展させる。

当該実証研究が必要な背景について

1)沖縄観光の現状と新たな展望

◆ウィズ・コロナ時代の沖縄観光

 現在、新型コロナウイルス感染症は沖縄県経済のリーディング産業である観光産業をはじめ、ありとあらゆる業界に多大なダメージを与えている。沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課は今年4月、2020年度の県内入域観光客数が前年度比72.7%(688万5600人)減の258万3600人だったと発表した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う旅行の自粛等により、過去最大の減少幅となった。国内客は63%(439万5200人)減の258万3600人。コロナ感染拡大によるGo Toトラベル事業の一時停止や、国や県の緊急事態宣言が出されたことなどが影響した。外国客は19年度に249万400人だったが、20年度はゼロ人。20年3月に国際線が全便運休となり、4月以降はゼロが続いている状態で、クルーズ船とともに運航再開の目途は立っていない。

 ウィズ・コロナ時代の方針として、県は空港や港湾における水際対策や医療体制の拡充、検査拡大の推進を掲げている。観光産業復活の土台として、「安全・安心の島沖縄」の推進と国内外のターゲットを明確にしたプロモーションの展開が今まさに必要である。

◆アフター・コロナ時代の沖縄観光

 コロナ前は沖縄に限らず、世界全体で海外旅行者数の増大、特にアジア等新興国からの旅行者数の大きな伸びが見込まれる一方で、観光が自然環境への影響や住民とのあつれき等、負の影響(オーバーツーリズム)をもたらしていた。持続的に発展する観光産業を目指す上では、観光における「量から質への転換」が重要である。そこで、沖縄県は今後の沖縄観光の基本方針として、

(1)観光リスクに対応する仕組みづくり

(2)持続可能な観光政策の推進

(3)持続可能な観光指標

(4)高次元のニーズに対応した質の高い観光の推進

(5)沖縄のソフトパワーを生かしたツーリズムの展開

(6)観光産業の多様化と高付加価値化

(7)バリアフリー化の促進

(8)観光管理の強化とレスポンシブル・ツーリズムの推進

(9)ターゲットマーケティングへのシフトチェンジ

を挙げている。(沖縄県「ウィズ・コロナ、アフター・コロナ時代の新たな沖縄観光基本方針」2021年3月より引用)

◆高次元ニーズ対応の観光推進と沖縄らしいSDGsの実現

 多くの観光客を惹きつける力(=ソフトパワー)として自然(気候、海、陸、空、島々等)、沖縄固有の文化や歴史的資源がある。また、健康長寿という沖縄のソフトパワーを活用したウェルネス・ツーリズムは今後のターゲットマーケティング展開の1つの切り口と言える。さらに、沖縄の自然、歴史、文化など魅力ある観光リゾート資源を生かしたMICE(ビジネスイベント)との効果的連携や障害者対応をはじめとするユニバーサル・ツーリズム、野球やサッカーのキャンプ・大会誘致等、温暖な気候や既存インフラを活用したスポーツ・ツーリズムなど、高次元のニーズに対応した質の高い観光を推進する必要がある。そして、高次元ニーズ対応の観光推進と同時に、「沖縄らしいSDGs」の実現を目指していかなければならない。


2)新しい時代の沖縄観光を支える人材育成の必要性

◆沖縄が目指すべき新しい時代の観光

 従来の量だけを追い求める観光は観光先の自然や文化、地元住民の生活に負の影響を与えることが多かったことを背景に、観光と地域の共存・共生に向けた新たなコンセプトとして、観光客と地域住民が価値を共有するレスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)が国際的な広がりを見せている。観光客数の増加と自然・文化の保護、住民とのバランスは沖縄にとっても解決すべき課題である。量から質を重視する観光への転換により、良質で持続可能な観光(サスティナブル・ツーリズム)を目指すべきである。

◆次世代観光人材育成の必要性

 観光産業は沖縄のリーディング産業として県経済をけん引し、コロナ収束後もさらなる成長と発展が必須である。我々専門学校にとって、新しい時代の沖縄観光を支え、沖縄の観光を量から質へ転換し、良質で持続可能な観光を拡充できる次世代観光人材を育成することは今、最大の使命と言える。そこには、ウェルネス・ツーリズム等新しいツーリズムの開拓、オーバーツーリズムからレスポンシブル・ツーリズムへの転換など、新しい知識醸成が必要である。

◆「高専連携プログラム」による人材育成の意義

 内閣府「沖縄の子供達を取り巻く現状」より、沖縄県の高校進学率は97.3%で全国順位は低いほうから1位、高校中退率は2.2%で全国順位は高いほうから1位となっている。沖縄県の大学等進学率は39.6%で全国順位は低いほうから1位であるが、専修学校進学率は24.1%で全国順位は高いほうから2位となっている。なお、沖縄県の子どもの相対的貧困率は29.9%で、全国平均の約2.2倍にのぼり、1人当たり県民所得は全国最下位となっている。

 専修学校への進学希望者が多い沖縄で、高校から5年という年月をかけて教育していくことは新しい時代の沖縄観光を支えるために必要不可欠である。現在、高校1年生(16歳)が専門学校教育を経て社会人となる2026年頃には沖縄のソフトパワーを生かした高付加価値の新しいツーリズムが開拓されつつも、沖縄の自然や文化、地域住民を守り、世界から選ばれる持続可能な観光地となることが強く求められる。

 「ただ人数を追うのではなく、継続的に沖縄に来てくださるお客様、沖縄でお金を使っていただけるお客様、お金だけではなく沖縄の自然や文化に対して尊敬の念を持っていただける質の高いお客様を求め、獲得していくこと」を高専連携プログラムで習得し、実践できる人材に育成していかなければならない。そして、アフター・コロナ時代に、高専連携プログラムで学んだ卒業生が即戦力となり、沖縄県のリーディング産業である観光をけん引していくことで、子どもの貧困率低下、そして県民所得増加という地域課題解決に寄与していく。

開発する教育プログラムの概要

ⅰ)名称

沖縄・観光分野における有機的高専連携プログラム

ⅱ)内容

◆新しい時代の沖縄観光を支える人材を育成する総合プログラムを開発

 沖縄の観光を量から質へ転換し、良質で持続可能な観光を拡充できる次世代観光人材を育成するために本事業で開発するプログラムは「高校」「専門学校」の前後に位置する「中学」「卒業後」を包括した総合プログラムとする。

◆問題意識を持ち、解決法を考え、実践できる人材を育成

 プログラム受講者が「5種」の観光人材に成り代わり、「7種」の問題の解決法を考える。新しい時代の沖縄観光を担う若い世代がプログラム通して沖縄の観光を量から質へ転換する方法を自ら問題提起し、解決法を見出し、実践していく。その実践力が県のリーディング産業である沖縄観光の未来を支え、沖縄を世界から選ばれる持続可能な観光地にしていく。

◆開発するプログラム全体図

◆高専連携接続の課題と解決方法

 高・専一貫プログラムを高校から受講している者と受講していない者で学習時期にズレが生じるが、資格取得対策の通信化、段階的に人材育成できるワークショップの開発により、受講・未受講での接続課題を解決、学習者全員を地域の中核人材へと育成していく。